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17話 受付嬢の仮面を剥いだ純粋な幸福

Author: みみっく
last update Last Updated: 2026-01-02 06:00:11

「分かった。みんなには内緒ね!」

 ユウヤが爽やかな笑顔で約束すると、ニーナは安堵したように、けれど大切そうにネックレスを胸に抱きしめた。窓から差し込む陽光が、彼女の金髪と青い魔石を宝石のようにキラキラと輝かせていた。

「魔石の買い取りは、どういたしますか?」

 ニーナが名残惜しそうにネックレスを指先でなぞりながら、職業的な顔に戻って尋ねた。

「ん~今回は、止めておこうかな」

 これだけの数の魔石を一気に市場へ流せば、価格の暴落を招くかもしれない。ユウヤはそう判断して首を振った。

「そうですか……分かりました。それでは、こちらが今回の報酬の金貨五枚です。それと……ちゅ♡」

 金貨を手渡すためにユウヤが手を伸ばした、その一瞬。ニーナが不意に身を乗り出し、至近距離まで顔を近づけた。頬に、柔らかく温かな感触が触れる。

 え? えっと……。

 ユウヤは雷に打たれたように硬直した。嬉しいけれど、ここがギルドの応接室であることを考えると、あまりにも刺激が強すぎる。

「ご迷惑かもしれませんが……私に出来る、精一杯のネックレスのお礼です……」

 ニーナはいたずらっぽく、それでいて潤んだ瞳でユウヤを見つめた。その表情には、受付嬢としての仮面など微塵も残っていない。

「心配してくれたお礼だったのに……またお礼をされちゃったよ」

「はい。本当に嬉しかったのです。あんなに素敵な、初めてのプレゼントを頂いちゃいましたから……」

「え~ひどっ。あの時に、あげたリボンもプレゼントだったのに……」

 ユウヤがわざとらしく、少し拗ねたような声を出す。

「あ……そういう事では……すみません……ううぅ……」

 『ニーナは失敗した!』という顔で両手で顔を覆い、指の隙間から真っ赤な顔を覗かせた。先ほどまでの大胆さはどこへやら、彼女は小刻みに震えながら情けなく呻いている。そんな彼女の反応が面白くて、ユウヤは思わず「あはは」と声を上げて笑ってしまった。

「冗談だよ。リボンも大切にしてくれてるの、知ってるから。でも、リボンは安いからね~。やっぱり、印象が弱かったかな?」

 ユウヤが冗談まじりに肩をすくめると、ニーナは弾かれたように顔を上げ、自身の金髪に手を添えた。そこには、あの日ユウヤが贈ったリボンが、丁寧に、そして大切に結ばれている。

「そんなことはありません……! 今日も、こうして身に付けていますし♪」

 ニーナは誇らしげに、そして少しだけ照れくさそうに微笑んだ。その表情は、先ほどの高価な魔石を受け取った時と同じくらい、あるいはそれ以上に幸せそうな光芒を放っている。

「あ、ホントだ……ありがとね。ニーナが優しくて助かったよ」

 ユウヤが屈託のない笑みを向けると、ニーナは予想だにしなかった言葉を投げかけられたかのように、一瞬だけ呆然とした。

「へ? いえいえ……ユウヤ様こそ、本当にお優しいので……。わたくしの方こそ、いつも元気をいただいています。えへへ……♪」

 彼女は蕩けるような笑顔を浮かべ、幸せを噛みしめるように頬を緩めた。応接室の空気は、外の喧騒が嘘のように穏やかで、甘い余韻に包まれている。

「あ、護衛の人に注意をされてたんだった……ヤバイ。可愛い笑顔でドキッとしちゃったよ。さっさと帰らなきゃ」

 ユウヤは跳ねるような鼓動を落ち着かせるように胸に手を当て、我に返った。ミリアを心配させてはいけないと、改めて自分に言い聞かせる。

「それじゃ……また依頼を見に来るね」

「はい。その時は列に並ぶのではなく、わたくしにお声をお掛けください。すぐに対応をいたしますのでっ♪」

 ニーナは弾けるような笑顔で立ち上がり、ユウヤの瞳を真っ直ぐに見つめてそう告げた。その提案はあまりにも特別扱いで、ユウヤは少しだけ戸惑いを感じる。

「え? 良いのかな?」

「ギルマスの指示でもありますし、他の冒険者の方も知っているので問題ありません。もし問題が起きてもギルドとして対応を致しますので、お気になさらずに~えへへ……♪」

 彼女は自信たっぷりに胸を張り、くすくすと楽しそうに笑った。その様子からは、ユウヤがこのギルドにとっていかに重要な存在であるか、そして彼女自身がどれほどユウヤの役に立ちたいと願っているかが伝わってくる。

「そっか~、ニーナを頼りにしてるよ」

「はい! お気をつけてお帰りください、ユウヤ様!」

 背中でニーナの弾んだ声を聞きながら、ユウヤは応接室を後にした。

 ギルドのホールを抜け、夕闇が降り始めた街路へと足を踏み出す。頬を撫でる夜風が、ニーナに触れられた場所を微かに熱くさせている気がした。

「これだけじゃ済まないと俺は知ってるよ……。依頼書をギルマスが見たら、また大騒ぎになるんだろ……? はぁ……またギルドか王城行きだよな」

 ユウヤは夕闇に溶けゆく街並みを眺めながら、重い溜息を吐き出した。三万三千という、もはや軍隊でも動かさなければ不可能な討伐数。それがたった一人の手によって成されたと知れば、上が黙っているはずがない。

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